
栄養管理から集団調理まで~給食業界のイロハ
調理師専門学校卒業後の主な就職先のひとつに挙げられるのが給食業界。 給食業界とは大きく分けると2つのタイプがあり
・直接給食:学校や病院・介護施設など自前で雇用する運営形態 ・委託給食:業種問わず外部委託の運営を担う企業
前回記事「▼引く手あまたの給食業界!大手給食会社への就職メリット」の記事で紹介したのはもっぱら後者の委託給食会社となりますが、給食業界とは主にこの2つのタイプの総称とも言えます。
この2つのタイプの給食会社、細々とした業務範囲や役割が異なる部分も多数ありますが、それぞれの特徴を端的に言うと
・直接給食:同じ出勤先で業務も一定している(異動が少ない) ・委託給食:出勤先や勤務時間、職種も変わる可能性がある
ということが言え、前者は規則正しく安定した職場環境であるのに対して、後者は派遣先によってその場所も勤務時間も行う作業も定期的に変わる可能性があるという違いがあります。
もちろん、直接給食を担う会社であっても、同時に委託給食を行っているケースも少なくありませんので、配属次第では委託給食に携わる可能性はありますが、近年では「仕事と同時に私生活も大切にしたい」という
仕事に対する価値観の多様化が進んでいる
ということもあり、土日祝休みはもちろん、勤務時間も明確で残業無しといった条件で就職先を選ぶ学生も増えつつあります。そうした背景もあり、安定を求める人にとって「直接給食」の人気が高まっておりますが、一方で委託給食では
・様々な調理現場を体験し、技術を習得することができる
・栄養士とコンビを組んだりと他の職種と連携・経験が積める
・本社勤務だったり新規事業部だったりとキャリアの幅が広がる
・会社規模が相対的に大きく、キャリアサポートが充実している
などといったメリットもありますので、一概に「どちらが良い」というお話ではなく、
あくまで自身の生活スタイルや仕事に対する認識や価値観
に照らし合わせて判断する必要があります。
そこで今回は、そんな卒業後の進路の代表格のひとつとも言える給食業界を深堀し、主な2つのタイプ「直接給食」「委託給食」のメリット・デメリットはもちろん、その業種における具体的な業務の違いや待遇や条件などにおいても詳しく見ていきます。
ひとことで「給食業界」と言っても、自身で携わる業務は多種多様ですので、「こんなはずじゃなかった」というミスマッチを未然に防ぐためにも、しっかりと給食業界への理解を深めておくようにしましょう!
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学校から病院まで~給食業界の社会的意義
さて、そんな就職先としては王道の給食業界ですが、給食業界全体の特色や特徴について軽く触れておきましょう。
1,安定した需要がある
2,社会的意義が大きい
3,深刻な人手不足で売り手市場
4,調理師や栄養士の経験を活かせる
5,規則正しい生活で家庭との両立がしやすい
などが挙げられます。
1番の安定した需要に関しては説明の余地がありませんが、人間が日常生活を営むうえで「衣・食・住」は必須の要素であり、また学校や病院、介護施設などは公共的意味合いの高い分野となるため、景気にも左右されにくいという特徴があります。
2番の社会的意義が大きいというのも
・食を提供することで人に喜んで貰える
・人の生活や健康、幸せをを支える
・お年寄りや子供など世代を超えた社会貢献
などという「やりがい」を実感できるのも給食業界の特徴のひとつです。
3番の深刻な人手不足においては、これは給食業界に限った話ではありませんが、どの職場もスタッフの高齢化も進んでおり、
若手を重宝する風潮にある
のは間違いありません。
なお、外食産業などにおいては、その就職先によっては若手が多い職場もあり、同世代の人が多いほど働きやすいイメージを持ちがちですが、社会人ともなると、一定の技術や知識、ノウハウが必要となり、
それを教えてくれる年長者の存在は思いのほか大きいもの
特に調理技術などは、先輩の仕事っぷりを見て盗むことができるかもしれませんが、調理師が求められるものは調理技術のみならず、食品衛生や安全管理、栄養学の基礎知識など、技術ではまかなえない領域も必要となってきますので、ある程度方向性を示してくれる年長者がいた方が、
自身のスキルアップにもつながる
ということを覚えておきましょう。
ただ、これだけ深刻な人手不足ではありますが、待遇面が良くなっているかというと、手放しで喜べる状況ではないという構造的な問題が存在します。例えば、学校給食などは、公立学校や自治体の予算内で運営されていることから、
いくら人手不足であっても予算内で回す必要がある
病院も同様に、医療費や診療報酬から給食コストが捻出される予算制限がカツカツといっても過言ではありません。また、給食業界全般的に「朝が早い」「重労働」「待遇が悪い」といったイメージが先行してしまっており、福利厚生が充実しているとか、土日祝がちゃんと休みといった良い面があまりフォーカスされていないのが実情。足元では、そうしたことを理解したうえで、就職先として人気が出てきていますので
ネガティブな印象に惑わされないことが大切
ということを念頭に置いておきましょう。
上記のとおり、給食業界全体的に見ると、1つの職場で地に足を付けて実績を積むか?もしくは、複数の現場で経験を積み、必要に応じて他の職種にチャレンジするか?という選択肢になってきます。冒頭でもお伝えしたように、仕事を含めた生活スタイルを重視するなら前者、色々な事を経験して積極的にスキルアップしようとするなら後者ではありますが、
あくまで自分自身の意欲次第でどうにでもできる
というのが現実ではありますので、どのような就職先・職場であっても物事に対して積極的に取り組む前向きさをしっかり持つようにしましょう。
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給食業界の職種と将来的なスキルアップシナリオ
給食業界の主な業務や社会的意義を理解したところで、最後に主な職種と業態について詳しく見てみましょう。もちろん、ここで挙げる職種は一例に過ぎませんので、給食業界の仕事がこれで全てではないという前提となりますが、卒業後の就職先選定の参考材料として、各給食業界の主な業務について把握しておきましょう。
1,学校給食
言わずもがな、大量調理の基本となるのが小中学校などの学校給食。
単に大人数の食事を作る訳ではなく、多数の人に同じ条件で安全に食事を提供することの難しさや調理方法を学ぶきっかけとなります。大量調理とは、1度の食事で100食以上、または1日250食以上提供する調理方法や仕組みを指し、厳格な衛生管理や効率的な作業が求められます。
2,社員食堂などの事業所給食
企業の社員食堂や社員寮、学校の寮の食堂などが該当します。
学校給食のような大量調理が必要になる場合もあれば、オーダー式でその場で調理する場合もあり、その形態は様々です。各企業の福利厚生の一環であり、企業が給食会社に委託して運営されているケースがほとんど。企業が自前で持つ場合は、その企業の社員として入社することになります。
3,医療・福祉・保育園給食
病院給食での給食や介護施設での給食を受け持つ職種形態。
病状によって特別食が用意されたり、咀嚼・嚥下に配慮したミキサー食を用意したりと、栄養士等の献立に従い専門的な給食スキルを身に付けることができます。また、保育園・幼稚園給食においても、アレルギーを考慮した食材の提供など、一定の知識とオペレーションスキルが求められます。
4,公共機関や公共施設での給食
刑務所や少年院といった矯正施設や警察署・消防署などの官公署における特別な環境での給食。大量調理に該当するケースが多く、栄養バランスはもちろん、調理の効率化やコスト管理が重視されます。なお、施設の特性上、国家公務員としての採用となり、調理専門職員で募集されることは稀です。
このように、ひと言で「給食」と言ってもその形態は様々で、もちろん配属によっては自身の希望する職種に就けない可能性もあります。特に病院給食や保育園、幼稚園給食においては、栄養学のほか、徹底した衛生理念と管理、それに応じた専門知識が必要になり、
栄養士や管理栄養士などの資格があると厚遇される
ことは言うまでもありません。
もちろん、病院給食においても栄養士が作成する献立を調理するのが仕事ですが、栄養士らの仕事を目の当たりにするわけですので、その影響を受ける可能性は十分ありますし、自らで勉強し直して資格取得を目指すというシナリオも夢があります。
なお、給食業界全般的に言えるデメリットとして
毎日ルーティン作業で飽きやすい
と言うことがよく聞かれます。
日々の献立もローテーションであったり、大量調理の中では常に時間との勝負となりますので、そういう意味では確かにメンタルは削られやすいかもしれません。また、飲食店のように自らの発想やアイデアを献立に反映することはできませんので、調理師としての満足度は得にくくなってくるかもしれません。
ただ、給食のような集団調理においては、
・大量調理に対する達成感や効率化のノウハウ
・治療食や食品アレルギーに対する知識向上
・患者さんなどの利用者から直接感謝を言われること
などと言うように、その職種に携わって初めて気づくこと、発見すること、興味を持つこともたくさんあります。こうした感情が、
自身のスキルアップ意欲を揺り動かす
すなわち仕事に対する視野を広げることにもなりますので、就職直後は何事も前向きに捉え、一生懸命仕事をこなす気持ちを忘れないようにすることが大切です。給食業界に限らず、入社後一定の期間が経過すれば、誰しも「飽き」を感じるもので、そこでその先の未来を見失うか、別の視点で視野を広げられるかはあなた次第なのです。
給食業界においても、常に将来的なスキルアップを視野に日々の業務に取り組むようにしましょう。
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