食事面からアスリートを支えるアスリートフードマイスターとは?
食に携わる仕事と言われると、レストランなどの飲食店や食品の製造・加工・販売に関わる職種、給食施設が思い浮かびます。その他、大手コンビニなどの商品開発なども人気の職種になってきているようですが、近年注目度が高まっているのが「アスリートフードマイスター」という存在。アスリートフードマイスターとは、その名の通り食事面からアスリートのパフォーマンスを支え、
勝つための食事を設計する専門職
であり、競技を問わず世界で活躍するアスリートの多くは、世界遠征時などにアスリートフードマイスターを帯同させるほど、その職種の重要性は高まりつつあるようです。なお、食のプロ・栄養のプロという観点では、管理栄養士の方が知名度も高く、専門性が高いように思えますが、アスリートフードマイスターとの決定的な違いは
競技内容と必要なエネルギーに合わせて食を組み立てる知識を持つ人
であり、より現場向きで、より競技に特化した献立を設計する能力が求められます。
例えば、アスリートと言えど長距離ランナーと短距離スプリンターとでは、使う筋肉も異なれば、必要となるエネルギーも異なってきます。前者で言えば長時間エネルギーとして燃やし続けられる糖質や脂質が必要となるのに対して、後者は短期的に爆発力を得るアデノシン三リン酸やクレアチンが必要となり、脂質はまったく必要ありません。また、水泳選手のように1日目はスプリント種目、2日目は中・長距離種目のような日程があったりと、同じアスリートであっても
日ごと・種目ごとに食事内容を最適化する必要があります。
そんな食の面からパフォーマンスをサポートするのがアスリートフードマイスターであり、栄養設計という重要な役割を担っているのです。もちろん、管理栄養士のような国家資格ではなく日本独自の民間資格ですし、科学的根拠と厳格な基準が求められる医療食のジャンルに踏み込むことはできませんが、近年日本人アスリートが海外で活躍するシーンも増えつつあることも背景にあり、
アスリートフードマイスターの重要性が認識され始めております。
なお、日本国内でも連日報じられるMLB(米メジャーリーグ)での日本人選手の活躍。そんなMLBの各チームには、スポーツ栄養のプロ「ダイエティシャン」が必ず在籍しており、選手の食事を計画的に管理し、試合日程に合わせて科学的に献立が組まれています。このダイエティシャンは、日本で言う管理栄養士となりますが、
知識補完としてアスリートフードマイスターを持つことがある
というのも実情で、やはりその競技に特化した食の専門家という位置づけは、今後ますます需要が高まる可能性があり、特に世界的な活躍が目覚ましい野球のほか、サッカーやバスケ、ラグビーなど、様々なスポーツにおいてアスリートフードマイスターの資格を活かす場面が増えてくるかもしれません。
そこで今回の記事では、そんなアスリートフードマイスターの業務内容にスポットを当て、実際の現場での仕事尾や求められるスキル、そして調理師や栄養士との親和性や相関性など、
卒業後の進路の選択肢の一つとなりうるかどうかを徹底検証
特に調理師専門学校を卒業し、調理師資格を持つ生徒さんにとって、本資格がどのように有利に働くのかを紐解いてご説明していきます。
栄養士やアスリートフードマイスターは献立設計のプロフェッショナルではありますが、その献立を実際に形にし、調理できるのが調理師です。献立設計と調理技術はセットで求められることが多く、調理師資格とその技能は現場において高く評価されます。そのため、在学中に学んだ
多様な調理知識や技術を活かすことができる資格のひとつ
として、アスリートフードマイスターは有力な選択肢と言えるでしょう。 この機会にぜひ、アスリートフードマイスターへの道を選択肢の一つとして、その業態や仕事内容をしっかりと把握しておくことをおすすめします。
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実際に継続可能な献立を作れる人が重宝される業種
前段でもご紹介したとおり、アスリートフードマイスターの役割は、そのアスリートの競技や目的に合わせた献立設計を行うことにあります。
もちろん、この献立を設計するうえでは「なぜその食事や栄養摂取が必要か?」という点を十分に理解しておく必要がありますので、教科書的に栄養素の知識があれば良いというものではありません。レース当日に照準を合わせ、日単位・時間単位での食事の組み立てをサポートしていくという観点では、競技そのものの理解も深める必要があります。
例えば、サポートするアスリートの競技によっては
・持久系競技(マラソンやサッカーなど)
・瞬発系競技(短距離走やジャンプ系競技)
・混合系競技(野球や水泳など)
といった違いがありますし、食事面からサポートすると言っても
・試合数日前の練習前後の食事
・試合前日の食事
・オフの日の食事
といった具合に、そのタイミングによって食事の内容・摂取する栄養素に違いがあることも理解しておく必要があります。もちろん、自分自身が理解していれば良いという訳ではなく、アスリート本人に
「なぜこの食事が必要なのか?」という点を落とし込むスキル
も必要となりますので、当然アスリートとの信頼関係が構築できなければ、いくら栄養学的に理に適った献立を提案できたとしても、それを存分に発揮することができなくなってしまいます。
そしてもう一つ、これまではアスリートフードマイスターとしての役割「献立設計の重要性」をお伝えしてきましたが、具体的な運用フェーズに入りますと、アスリートフードマイスターの仕事はあくまで「設計図を描く」までとなりますので、調理においては
その設計された献立を忠実に再現できるプロ
が必要となってきます。
そこに白羽の矢が立つのがまさに調理師なのです。
つまり、栄養士と調理師の関係と同様に、アスリートフードマイスターと調理師とが協力して献立と調理を実行するという形が一般的ですが、調理師資格を持つ者がアスリートフードマイスターを持つことで
献立設計から調理・提供までを一気通貫で行える
資格と技能を併せ持つというメリットを発揮することができるのです。
おさらい的になりますが、アスリートフードマイスターの役割は、あくまで献立の立案までにとどまり、原則として具体的な調理を行うものではありません。
しかし、トップアスリートの海外遠征などに帯同する場合には、献立設計から調理までを一貫して行える人材の方が重宝されることは言うまでもありません。その点において、調理ができるという強みを持つ調理師資格保持者は、現場における説得力や実用性がさらに高まると言えるでしょう。
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栄養士以上に強み?!アスリートフードマイスターへの道のり
最後に、アスリートフードマイスターになるための具体的な道のりについてみておきましょう。
前段でもお伝えしたように、アスリートフードマイスターはあくまで民間資格となりますので、当然これだけで仕事として成り立つわけではありません。数ある民間資格の中の一つの例として参考にすべき資格ではありますが、調理師資格との親和性が高い資格であると言えますので、スポーツ好きであったり、将来的に指導者を目指している人などにとっては、現場での説得力を高めるための有力な補助資格となるでしょう。
具体的に見ていきますと、アスリートフードマイスター資格には3段階あり
3級:一般・初心者
2級:指導者・調理師・現場関係者
1級:プロ志向・講師実践レベル
といった形でランク分けされています。
特に受験資格が定められている訳ではないので、誰でも受験することができますが、受験の仕組みはステップアップ方式となっていますので、まずは3級を取得したうえで、2級~1級とステップアップしていく必要があります。
すでに調理師資格をお持ちの方、現在調理師専門学校に在籍中の方であれば、ある程度基礎知識が役立つこともあるとは思いますが、各級ごとの学習内容としては
●アスリートフードマイスター3級 「スポーツのための食事学」の基礎知識を中心に学びます。
身につけた知識を自分や家族の食生活に役立てることを目指します。
●アスリートフードマイスター2級 アスリートの食事マネジメントを担える人を目指します。
アスリートをより深く理解するため身体のメカニズム、栄養学、競技者とのコミュニケーション手法を学びます。
●アスリートフードマイスター1級コース 高度な健康管理を要求するプロやハイアマチュアアスリートに帯同するメンターとしてのアスリートフードマイスター。栄養管理、ケガや病気の予防と治療の事例研究、医療との連携方法などを学び、コーチングの手法を用いてサポートする力を身につけます。
※出典:アスリートフードマイスター「コースのご案内」
https://001.athlete-food.jp/athlete-main/contents/hp0001/index.php?No=3&CNo=1
といった学習内容となり、同じ「食」というジャンルでも、調理師として学ぶ内容とはまた違った知識を吸収する必要があります。すでに調理師資格を持っている人も、いま専門学校に在学中という方も、当然献立の立案というのは行ってきているとは思いますが、アスリートフードマイスターという立場の者が
どのような視点で献立を設計するのか?
というこれまでにない新たな視点や視野を吸収することができるのは、調理師としてのスキル向上に役立つことは言うまでもありません。特に「調理師資格を活かす&箔をつける」という点では、2級取得を目指すのがおすすめで、2級の学習内容のなかには、
1,アスリートが必要とする栄養素
→調理師として栄養学はある程度身についている
2,食事の衛生管理
→調理師として衛生学・公衆衛生学はある程度身についている
3,食事が身体をつくり・動かすメカニズムを理解
→こちらも栄養学である程度身についている
といった具合に、これまで学んだ知識を活かすことができる学習内容が増えるのが2級となります。
アスリートフードマイスターの肩書を持つ調理師として実務に携わるとすれば、最低2級は取得しておいた方が説得力も信頼性も高くなるということでもありますが、それで必ず生計が成り立つという訳ではありませんので、
あくまで仕事の幅や領域を広げるための知識補完
ということで認識しておくようにしましょう。
最後に、アスリートフードマイスター資格は級ごとに受講料がかかり、検定試験に合格しなければ資格を取得することはできません。社会的な認知度は栄養士ほど高いとは言えないものの、アスリートのパフォーマンスを食事面から支えるという役割においては、大きな可能性を秘めた資格でもあります。
将来的には、トップアスリートやメダリストの食事に関わる立場となる可能性もあり、取り組み方次第では、
食の分野において非常に大きな貢献を果たす
ことも十分に考えられるでしょう。
そのような意味で、夢や目標を持って取り組める職種・資格の一つとして理解しておくと良いでしょう。
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