バランスの取れた食事の「バランス」を知るのが栄養学
調理師専門学校で学ぶ座学と言えば、食品衛生学や公衆衛生学といった調理師免許取得を前提とした多岐に渡る食に関する基礎知識。これら学習内容は、厚生労働省によって基本的な授業時間数の割り当てが定められていることは、過去記事「▼気になる授業内容や教材、カリキュラムを事前にチェックしよう」でもご紹介したとおりで、なかでも食の安全を司る食品衛生学や公衆衛生学、そして人間の生きる源でもある栄養学においては、
人・モノ・リスクを扱う知識として特に重要
とされています。
もちろん、これら基礎知識を身に付けていることで、調理師以外の職種でも潰しがきくというメリットもあり、先の世界的なパンデミックによって、公衆衛生学などは評価が爆上がりしたのは記憶に新しいところ。そして、昨今その評価がさらに高まりそうな分野が「栄養学」なのです。
その背景にあるのが、昨今の健康ブーム。
もちろん健康という抽象的なテーマだけでなく、生活習慣病への意識向上であったり、ロコモ回避としての運動習慣であったり、そして栄養素を意識したバランスの取れた食事であったりと、
健康以上に「自分を最適化」する意識
が高まりつつあるのはご承知のとおり。
そんな機運の高まりを背景に「栄養に対する知識」が注目されつつあるのです。今回の記事では、そんな栄養に対する基礎知識となる栄養学にフォーカスし、調理師専門学校で学ぶ栄養学の主なカリキュラムや押さえておきたいポイント。そして、将来的に栄養学がどのように役立ち、どのようなシーンで活用できるか?などをご紹介していきます。
ちなみに、これから調理師専門学校で学ぼうと考えている方からすれば
座学や暗記は苦手で実習しか興味ない
という人もいるかもしれませんが、調理師専門学校の座学の多くは、座学単独ではなく実習とセットで組まれることが多いです。つまり、「午前中に座学で学んだことを午後に実習で練習する」といった体験理解でカリキュラムが構成されているので、モチベーションが維持しやすいという特長があります。よって、座学の内容は実習と関連づけて覚えることができるので、勉強が苦手だという方もしっかりと知識を身に付けることができます。
ちなみに、指定養成施設となる調理師専門学校を修了した場合には、
調理師試験そのものが免除される
ため、栄養学はもちろん食品衛生学や公衆衛生学、関係法規などのすべて試験は免除されます。よって、栄養学の試験を受けることなる調理師免許を取得することはできるのですが、調理師が必要な本当のスキルは、暗記だけの試験対策ではなく
調理現場で大きな間違えを起こさないための教養
であるため、もちろん記憶ことも重要ですが、高校受験や大学受験のような学びではないという点は、事前に理解しておく必要があります。そんな調理師専門学校で学ぶカリキュラムのひとつ「栄養学」について詳しくみていきましょう。
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暗記中心でも実務に直結?!栄養学は人生の取扱説明書
調理師は、知識より調理技術が重要でしょ?!
と思われる方も多いと思います。
たしかに、調理の現場においては調理の技術や知識あっての料理人ではありますが、一流の調理師ほど、栄養を意識的に理解し、それを使いこなしている可能性が高いとも言えます。もちろん、栄養学を学術レベルですべて暗記しているという訳ではありませんが、
一流の料理人は「美味しい」だけを提供するわけではない
ということを考慮すると、栄養学は人生において役立つ場面が多いのも事実です。 例えば、料理に美味しさや食べ応えだけを求めるなら、脂多め・味濃いめにするだけで、誰でもある程度は美味しい料理を作ることができます。一方、こうした料理の傾向として
・味は美味しいけど胃もたれする
・脂や塩分が強すぎて高齢者にはキツイ
・一度食べたら「もういいや」
といった具合に、飲食店だとすれば「通いたくならない店」になってしまう可能性があります。一方、栄養バランスや消化、胃への負担まで考慮された料理設計がなされていれば、栄養バランスの取れた食事を提供できるだけでなく、食後の負担も抑えられます。 その結果、「食べたあとに重くならない」「また食べたくなる」と感じてもらいやすくなり、自然と何度でも足を運びたくなるお店作りのきっかけにもなります。
さらに、栄養学を料理設計に落とし込める料理人であれば、
・水溶性ビタミンが豊富な食材は茹で過ぎない
・たんぱく質は加熱しすぎると熱変性によって硬くなる
・栄養の吸収率を高める食材同士を組み合わせる
といったように、
調理方法によって食材と栄養を最大限に活かす工夫
を料理に組み込むことができます。
調理師において、必ずしも栄養士並みの専門知識が求められるわけではありません。しかし、栄養学を料理に反映させる思考を持つことで、料理人・調理師としての差別化を図れるという大きなメリットがあります。
上記はあくまで調理師や料理人としての観点ですが、栄養に対するリテラシーという観点で言えば、日常生活のさまざまなシーンで栄養や栄養バランスを考慮することが多々あります。例えば、食生活の乱れが原因で便秘気味だったり、ビタミン不足のせいで風邪をひきやすいといった具合に「栄養の偏り=体調を左右」ということは誰にでも理解できること。栄養を知っていることで
今後の人生における生活の質をも左右する
と言っても過言ではありません。
栄養学をはじめとする座学の多くは暗記を前提とした知識が多く、調理師専門学校卒業後は、その多くを忘れてしまうのも事実ですが、栄養学は料理設計や体への影響を理解するための学問であり、実務と結びつきにくい暗記主体の学問ではありません。
栄養学は人生の取扱説明書とも言われるように、栄養学を「覚えるための知識」で終わらせるのではなく、料理を設計するための考え方として捉え、日々の調理やメニュー構成に確かな根拠と説得力を持たせることができる調理師こそ、一流の料理人と言えるでしょう。
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栄養リテラシーが高い人ほど「美味しい&健康維持」を意識
前段でもお伝えしたように、昨今は健康意識の高まりを背景に栄養バランスや食事の質への知識も高まりつつあります。最近では、大手コンビニでも健康志向の食品に注力しつつあり、ひと昔前のような「コンビニ食=不健康」といったイメージや先入観は、だんだんと時代遅れになりつつありますので、
単に「美味しい」だけでは時代についていけない
ということを念頭に置いた思考が必要です。
例えば、スイーツのジャンルで言えば、下手な洋菓子店よりも「コンビニスイーツの方が安くて美味しい」という認識が広がりつつあります。同様に、いずれ飲食店においても「コンビニフレンチの方が安くて美味しい」と言われる時代が来るかもしれません。そうした状況において、
栄養まで考慮された料理を提供できること
は、調理師にとって大きな差別化要素になります。特に、健康や食事の質を重視するなど、栄養リテラシーの高い層が増えている現代においては、栄養学を料理設計に落とし込める調理師の価値は、今後さらに高まっていくと考えられます。
ちなみに、これまでの文章のなかで「調理師」と「料理人」という言葉が出てきましたが、現場の実務レベルでは、調理を行う人は「料理人」というイメージの方が強いかもしれません。調理師と料理人の違いは、
制度上の差はあるものの明確な区別はない
というのが一般的な認識。
もちろん、調理師は国家資格、料理人は呼称でしかないので、資格の有無は大きな違いではありますが、だからと言って無資格の料理人は知識がないか?と言われれば決してそうとも言えませんし、調理師免許を持つ人は必ずしも美味しい料理を作れるわけでもありません。この点は言葉のニュアンスと主観・印象だけの話ですが、
・調理師免許を持つ一流料理人は多い ・調理師免許はないけど超一流シェフも一定数いる ・調理師免許はあるけど料理人として未熟な人もいる ・調理師免許はないけど人気店に仕上げた人もいる
食に対するさまざまなニーズがあるなかで、一般論で言えば
一流の料理人なら美味しくて当然でそれ以上の付加価値が得られる
と期待するのは当然で、その付加価値のひとつとなりうるのが栄養なのです。
もちろん、料理の見た目や店舗の雰囲気、提供サービスといった体験を付加価値と捉えることが多い傾向にあり、栄養の知識が落とし込まれた料理というのは目に見えにくいため、即座に評価されにくい傾向があります。ただし、食後の重さや軽さ、翌日の体調、継続的な満足感といった形で、体験の質として蓄積されていくことでしょう。
一流の料理人に求められる付加価値とは、一皿の美味しさだけにとどまらず、
「また食べたい」と感じさせる総合的な信頼
であり、栄養はその土台を支える重要な要素のひとつなのです。
栄養の知識は、料理人としての成長だけでなく自身の食生活を考えるうえでも、長く役立つ土台となります。在学中にその重要性を理解し、実践につなげていくことが大切です。
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